折口 信夫
日本文学の発生
私は、日本文学の発生について、既に屡※(二の字点、1-2-22)書いて居る。その都度、幾分違つた方面から、筆をおろしてゐるのだが、どうも、千篇一律になつて居さうなひけ目を感じる。此稿においては、もつと方面を変へて、邑落の形と、その経済の基礎になつて行くものが、文学の上に、幾分でも姿を見せてゐようと言ふ様な方面に、多少目を向けて行きたく考へる。
日本における文学発生――必しも、我が国に限らぬことだが――は尠くとも、文学意識の発生よりは、先つてゐる事は、事実だ。つまり、文学の要求が、文学を導いたのでなく、後来文学としてとり扱はれてよいものが、早くから用意せられてゐて、次第に目的と形態とを変化させつゝも、新しい文学意識を発生させる方に、進んで来てゐたのだ。其と共に、新しい文学が、他から来り臨んだ時の為に、実際その要求に叶ふものとしての文学が、既に用意せられて居たことになるのである。
私は、此文学の発足点を、邑落々々に伝承せられた呪詞に在る、と見て来てゐる。
日本文学の発生