吉田 甲子太郎
秋空晴れて
一
「まったくでござんす、親方。御覧の通りの痩せっぽちじゃござんすが、これで案外胆っ玉はしっかりしてますんで。今まで乗ってました船でも、こいつぐらい上手にマストへのぼる奴はなかったそうでござんす。まるで猿みたいな奴だなんていわれてたくらいで――高いところの仕事にはもって来いの餓鬼です。どうでしょう、ひとつあっしと一しょにリベット(鋲打)の方へでも、ためしにお使いんなっては頂けねえでしょうか」
ガラガラ、ガラガラとウィンチ(捲揚機)の廻転する音、ガンガンと鉄骨を叩く轟音、タタタタタとリベット(鋲)を打ち込む響、それに負けないように、石山平吉は我にもなく怒鳴るような大声で一息に言い終ると、心配そうな眼をして監督の顔を覗き込んだ。なかなか仕事はないし、出来ることなら自分の手もとで働かせたい――そう思うと平吉は、どうしても一生懸命にならずにいられなかった。
監督は腕組をしたままの姿で、平吉と並んで少し笑を含んで自分の方を見て立っている少年へ眼を移した。息子の一男が笑を含んでいたのは、父親のいうことを聞いていると、つまりはこの自分を父親が自慢していることになるのがおかしかったからである。