国枝 史郎
小酒井さんのことども
小酒井さんが長逝されました。私はボンヤリしています。同じ名古屋に住んでいたため特に親交があったからです。
医学者として大家であり、探偵文学者として一流であったことは世間周知のことと思いますが、私の知っている幾人かの実業家は小酒井さんのことをこのように申して居りました。
「小酒井さんは大事業家の素質を持っています。あの人が病身だということは如何にも残念です。健康でさえあったら実業の方面でも大事業をされるのですに」と。
小酒井さんは、ひそかに或る土地会社式、乃至は宝塚式の大娯楽場設立の計画をされていたようです。或時その片鱗を私にも洩らされ「いよいよその時には貴郎にも是非」とこのように云われました。五六十万円ぐらいの計画のようでした。