国枝 史郎
支那の思出
私が支那へ行ったのは満洲事変の始まった年の、まだ始まらない頃であった。
上海、南京、蘇州、杭州、青島、旅順、大連、奉天と見て廻った。約一ヶ月を費した。
汽船は秩父丸であった。船がウースン河へ這入り、岸の楊柳が緑青のような色に萌え、サンパンだのジャンクだのが河の上をノンビリと通っている風景は美しかった。
デッキに立ってそういう風景を見ていると、同伴の妻が突然声を上げて河の一所を指さしたので私は其方を見た。
国枝 史郎
私が支那へ行ったのは満洲事変の始まった年の、まだ始まらない頃であった。
上海、南京、蘇州、杭州、青島、旅順、大連、奉天と見て廻った。約一ヶ月を費した。
汽船は秩父丸であった。船がウースン河へ這入り、岸の楊柳が緑青のような色に萌え、サンパンだのジャンクだのが河の上をノンビリと通っている風景は美しかった。
デッキに立ってそういう風景を見ていると、同伴の妻が突然声を上げて河の一所を指さしたので私は其方を見た。