上村 松園
「草紙洗」を描いて
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わたくしの夢幻の国、思慕の華、それはつねにこの世の芸術の極致の境にひろがっている能楽です。わたくしは能楽をこそ人間界における芸術への一と筋辿るべき微妙な路だと思っています。
わたくしがこんどの文展に出品したのは能楽にある小町の“草紙洗”ですが、しかしこれは能楽そのものをそのままに取ったのではありません。小町の描出を普通の人物に扱ったものですから、画面の小町は壺織の裲襠に緋の大口を穿っているのは、能楽同様な気持ですけれども、その顔には面を着けてはおりません。ですが、面※(「兵」の「丘」に代えて「白」、第3水準1-14-51)を能楽の面に型どっているところに、十分能楽味を保たしたわたくしの心持が表われているつもりです。この能楽に取材して、それを普通の人物に扱ったという点に、わたくしのある主張やら好みやらが含まれているわけです。
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