島木 健作
生活の探求
一
今年は春から雨の降ることが少なかつた。
山林を切り開いて作つた煙草畑まで、一町餘りも下の田の中の井戸から、四斗入りのトタンの水槽を背負つて、傾斜七十度の細い畦道を、日に幾度となく往き還りする老父の駒平の姿はいたいたしい。時には握飯を頬張りながら、葉煙草に水をやつてゐるやうな姿を見ることもある。
今年大學にはいつた息子の杉野駿介は、病氣が治り、健康がすつかりもとに返つても、なぜか東京へ歸らうとはしなかつた。彼は高等學校から大學に進むとほとんど同時に、まだ新學期も始まらぬうちに、感冒から肺炎をひき起して倒れたのだつた。一時は危險だつたが幸に命をとりとめた。東京の病院を出るとすぐに、病後の養生のために田舍の家へ歸つてもう三月からになる。