伊藤 野枝

ある女の裁判

一

ああ! 漸く、ほんとにやうやく、今日もまた今のびのびと体を投げ出すことの出来る時が来ました。けれど、もう十一時半なんです。此の辺では真夜中なんです。そして、今日の裁判所での半日は、それでなくても疲れ切つてゐる私を、もうすつかりへとへとに疲らして仕舞ひました。

出来るなら私は其処から真直ぐに家へ帰つて何も彼も投げ出して、寝床にころげ込みたいと思ひました。でも、南品川の叔父さんと叔母さんにお守りをされながら坊やが私を待つてゐるのです。私は虎の門で皆なと別れると真直ぐに新橋へ行つて坊やを迎へに急ぎました。

大崎で電車を降りてから石ころの多い坂路を挽きにくさうにしてのぼつて行く俥夫のまるで走らないのを焦り/\しながらついて見ますと、坊やは大よろこびで私に飛びついて来ました。そして大元気でした。叔父さんも叔母さんもおとなしかつたと云つて喜んでゐました。可愛想に坊やも、私が毎日出歩いてゐるものですから、昼間はこの十日ばかりと云ふものちつとも私と一緒にゐられないのです。九時過ぎに、叔父さんに抱つこされて大崎まで送られて帰つて来ました。電車の中でいゝ工合に眠つて駒込で降りる時にもよく眠つてゐましたが俥の上で涼しいのでか眼をさまして、家まで来て蚊帳の中で一しきり遊んで今やつとまた眠つたところです。

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