伊藤 野枝

監獄挿話 面会人控所

一 静かな読書生活

受附の看守が指した直ぐ向側の『面会人控所』の扉は重く閉されてゐた。龍子は新しい足駄の歯がたゝきにきしむのを気にしながら静かに歩み寄つて其の扉に手をかけた。重い戸が半ば開くと、直ぐ正面に同志のMの蒼白い顔が見えた。

此の控所は、東京監獄の大玄関の取りつきの右側で、三間ばかりの奥行をもつたそのたゝきの土間にそふてゐる細長い室であつた。這入つて左へ突き当つた廊下へ上る扉口と入口を除いた外は、此の九尺に三間の細長い室の三方の壁には面会人の腰をかける為めの幅の狭い木の腰掛けが、恰度、棚のやうな工合に取りつけてあつた。廊下へ上る扉口と向き合つた南側の、前庭に面した壁の上の方に大きな窓が一つ開いてゐた。

Mは其の入口の正面に腰をかけてゐた。室の内には、傘や、下駄や、スリツパが、二三足おいてあつたが、面会人はMを除いた他には、三つか四つ位の子供を縞目もわからないやうな汚いねんねこで背負つた女房が一人隅つこにうづくまつてゐる外には誰もゐなかつた。

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