泉 鏡花

沼夫人

一

「ああ、奥さん、」

と言った自分の声に、ふと目が覚めると……室内は真暗で黒白が分らぬ。寝てから大分の時が経ったらしくもあるし、つい今しがた現々したかとも思われる。

その現々たるや、意味のごとく曖昧で、虚気としていたのか、ぼうとなっていたのか、それともちょいと寝たのか、我ながら覚束ないが、

青空文庫の作品カード