国枝 史郎

闘牛

一

明日は闘牛の初日というのでコルドバの町は賑わっていた。

闘牛場に近い旅館の一つ――「六人の若い海賊」と呼ばれる広大な旅館の一つの部屋に一人の若者が宿を取った。商人とも見えず官吏とも見えず、と云って勿論軍人でも無い得体の知れない人物で服装なども醜かった。それで、旅館の支配人はボーイに眼くばせを呉れて置いて、ホテル中一番貧弱な室へ不性無性案内したのであった。

そうして置いて支配人は尚腹の中で斯う思った。「今を何時だと思ってるんだろう。闘牛季節の忙しい最中に、貧乏たらしい風彩をして、泊めてくれとは宜く云えたものだ。俺が慈善家でなかったなら一も二も無く拒わったのだ」

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