国枝 史郎
木乃伊の耳飾
一
まだ若い英国の考古学者の、ドイルス博士は其日の午後に、目的地のギゼーへ到着した。そして予め通知して置いた「ナイル旅館」の一室に当分の宿を定めたのであった。
博士は、ギゼーの此附近で、金字塔に関する考古資料を、発掘蒐集するために、地中海を通って杳々と、英国から渡って来たのであって、篤学の博士はその途中でも、モーソラスの霊廟や、ローズ島の立像や、アレキサンドリアの燈台などで、多少の発掘はしたものの、その本当の目的はギゼーの金字塔にあるのであった。
発掘用の道具などを、室の片隅へ片付けてから、博士は静かに旅装を解き、それから室を見廻わした。非常に高いその天井。それが博士を喜ばせた。左右の壁は卵色で、これという何んの装飾も無い。これも博士を喜ばせた。沙漠に向かって大きな窓が、一つぽっかり開いていて、レースの窓掛に蔽われているのも博士の気に入った一つである。何故かというに窓を通して、クウフ王に依って建立されたギゼーの金字塔が見えるからで、この金字塔は、他のあらゆる、総の金字塔と比較して、最大最高のものであった。