矢田 津世子

鴻ノ巣女房

隣りの紺屋の婆様から、ぎんはこんな昔語りをきいた。

或る山の中に男が一人小屋がけをして住んでいた。働いても働いても食うに事かく有様で、おのれの行末を考えては心細がっていた。或る晩大風があってほうぼうの大木が倒され畠の粟や稗がみんな吹きこぼれて、あっちこっちで助けてけろ助けてけろという叫び声がする。男は行きつけの旦那衆の手伝いをして家に帰って寝たが、夜中にどこからか助けてけろ助けてけろというかぼそい叫び声がきこえる。はて何処だべと思いながら夜を明かした。朝になって山へ柴刈に行ったが、まだゆうべの助けてけろ助けてけろという声がするから、だんだん尋ねて行くと、きのうの大風で倒れた古木の洞に住んでいた鴻の鳥が、木の間に体がはさまってどうすることも出来ずにキイキイ鳴いているのであった。男は苦労してその木を伐り倒して鳥を助け出し、傷んだ羽根を撫でてやったが鳥はつかれていてうまく飛べない。やっと飛び上ったかと思うと、ばさばさと地に落ち、飛び上ったかと思うと、地に落ちる。男は稼がなければならぬので思いを残しながら振りかえり振りかえり立ち去った。鳥は涙を流してその後ろ姿を見送っていた。或る雨あがりの日、男が山へ柴刈に行くと、若いきれいな女がやっぱり柴刈をしていた。女は笑いかけて、お前に行き会いたかったと声をかける。お前は誰れだと云っても、女はただ笑ってばかりいて、せっせと柴を採る。夕方になって男が帰りかけると女もついてきた。俺はこんな貧乏者だからお前のような女子に来られては困ると云っても、拝むようにしてどうか置いてけれせという。そしてふところから紙捻を出して、その中から米粒を二粒出して鍋に入れて

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