矢田 津世子

凍雲

秋田市から北の方へ、ものの一時間も汽車に揺られてゆくと、一日市という小駅がある。ここから軌道がわかれていて、五城目という町にいたる。小さな町である。封建時代の殻の中に、まだ居眠りをつづけているような、どこやら安閑とした町である。現に、一日市で通っている駅名も、元々、この町の名で呼び慣らされていたものだったけれども、いつのまにか奪取れてしまっていた。居眠りをしていたせいである。居眠りをしながら、この町は、老い萎えてゆくようにみえる。

町の人たちの中には、軌道を利用するひとが尠い。結構足で間にあうところへ、わざわざ、金をかけることの莫迦らしさを知っていたから、大ていは、軌道に沿うた往還を歩いて行きかえりした。

軌道の通じない頃は、この往還を幌馬車が通っていたし、雪が積りはじめると、これが箱橇に代えられた。町の人たちにとっては、そのころのほうが、暮しよかった。文明というものは、金のかかるものだと、こぼしあった。

この往還の途中に、七曲りというところがある。年を経た松の巨木が目じるしになっていて、この辺は、徒歩のひとには誂えむきの休み所と見えるけれども、町の人たちは滅多に立ち寄るということがない。此処で休んでいるのは、ひと目で在郷者とさえ分るくらいであった。

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