久生 十蘭
キャラコさん
一
キャラコさんは、ひろい茅原のなかに点綴するアメリカ村の赤瓦を眺めながら、精進湖までつづく坦々たるドライヴ・ウェイをゆっくりと歩いていた。山中湖畔のホテルに、従兄の秋作氏の親友の立上氏が来ていて、これからのキャラコさんの旅行の方針について、いろいろと相談にのってくれるはずだった。
籠坂峠へかかろうとするころ、とつぜん、重い足音がうしろに迫ってきて、四人の男がキャラコさんをおしのけるような乱暴な仕方で追いぬいていった。
継ぎはぎだらけの防水したカーキ色の上衣に、泥のなかをひきずりまわしたような布目もわからないコールテンのズボンをはき、採鉱用の鉄鎚を腰にさし、背中がすっかりかくれてしまうような大きな背嚢を背負っていた。風体からおすと、ひとくちに『山売』といわれる、あの油断のならない連中らしかった。