久生 十蘭
キャラコさん
一
……それは、三十四五の、たいへんおおまかな感じの夫人で、大きな蘭の花の模様のついたタフタを和服に仕立て、黄土色の無地の帯を胸さがりにしめているといったふうなかたです。
勇夫兄さまは、あれは、黄疸色というんだよ、と悪口をいいましたが、あたしは、賛成しませんでした。
眼も、鼻も、口も、りっぱで、大きくて、ゴヤの絵にある西班牙の踊り子のような顔をしています。皓い歯で真っ赤な花を咬んでいる、あんな感じ。……窓からチラリと見ただけですから、これ以上くわしい印象は申しあげられませんわ。このゴヤ夫人は、なんでも四五年前に、有名な離婚裁判を起こしたことのあるピアニストなんですって。