橋本 五郎
小曲
ひどい暴風雨だった。ゴーッと一風くると、まるで天井を吹き飛ばされそうな気持がする。束になった雨つぶが、窓硝子へ重い肉塊のように打つかって来て、打つかっては滝をなして流れるのである。そのひと揺れごとに電燈が消えた。時おり電車のひびきが聞えて来るが、それもその度に椿事があっての非常警笛のように思いなされた。何かはためいて、窓の外は底も知れず暗い。
田中君は、
「こんな晩だったんだな」
と呟きながら、立って窓の止め金を締め直した。読んでいる物語の恐ろしい場面が、恰度そんな暴風雨の晩であったのと、ひとつには風のためにその止め金が外れそうになっていたからである。