長谷川 時雨

傘

秋雨のうすく降る夕方だつた。格子戸の鈴が、妙な音に、つぶれて響いてゐるので、私はペンをおいて立つた。

臺所では、お米を磨いでゐる女中が、はやり唄をうたつて夢中だ。湯殿では、ザアザア水音をさせて、箒をつかひながら、これも元氣な聲で、まけずに郷土の唄をうたつてゐる。私は細目に、玄關の障子をあけてみた。

「冬子は見えてをりませうか?」

洋服で、骨の折れた傘を、半開きに、かしげてゐた。

青空文庫の作品カード