長谷川 時雨

春

今朝

昨夜、空を通つた、足の早い風は、いま何處を吹いてゐるか! あの風は、殘つてゐたふゆを浚つて去つて、春の來た今朝は、誰もが陽氣だ。おしやべりは小禽ばかりではない。臺所の水道もザアザア音をたて、猫はしきりにおしやれをしてゐる。

町では煙草のけむりが鼻をかすめ、珈琲が香ばしく、電車のレールは銀のやうに光り、オフイスの窓硝子は光線を反映し、工場の機械はカタンカタン響々と、規則正しく※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)つてゐる。

朝はまだバスの女車掌さんにも勞れは見えないし、少年工も口笛を吹いて、シエパードを呼ぶ坊ちやんに劣らぬ誇りを生産に持つ。

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