徳田 秋声

チビの魂

彼女も亦人並みに――或ひはそれ以上に本能的な母性愛をもつてゐた。間歇的ではあつたが、五年も六年も商売をしてゐたお蔭で、妊娠の可能率が少ないだけに、尚更ら何か奇蹟のやうに思へる人の妊娠が羨ましかつたり、子持の女が、子をもつた経験のないものには迚も想像できない幸福ものであるやうに思へたりしてならないのであつた。子供といへば豕の仔でも好きな彼女であつたので、散歩の途中犬屋の店で犬の子が目につくと、何をおいても側へ寄つて、本当に可愛ゆくて為方がないやうに見てゐるのだし、町の店屋などで綺麗な猫が見つかると、そこで余計な買ひものをしたりして、それは其の場きりのものだけれど、その子供を貰ふ予約をしたりするくらゐだつたから、母親に手を引かれて行く子供を看ると、別にそれが綺麗な子でなくても、ぽちや/\肥つてさへゐれば、蓮見に何とか話しかけて振顧るのであつた。

「あたい一度子供産んでみたい。」

「いや、真平だ。」

「療治すれば出来るといふわ、森元さんが……。」

青空文庫の作品カード