折口 信夫
沖縄を憶ふ
一
秋の日は、沖縄島を憶ふ。静かに燃ゆる道の上の日光。島を廻る、果てもない青海。目の限り遥かな水平線のあたりに、必白く砕ける干瀬――珊瑚礁の波。私は、島の兄弟らが、今どんな新しい経験をしてゐるか、身に沁みて思ふのである。
島の寂しい生活も、も少し努力すれば、心だけは豊かにさせることが出来た筈であつた。元々、我々「本土日本人」と毫も異なる所なき、血の同種を、沖縄びとの上に明らかにすることなく、我々は、今まで経過して来た。今になつても、まだしみ/″\と血を分けた島の兄弟の上を思ひ得ぬのは、誰よりも、歴史・民族の学徒が、負はねばならぬ咎である。
我々と、島の兄弟とが、血と歴史とにおいて、こんなに親近な関係にあつたことを、本土と、島の全日本に、もつと早く学問の上から呑みこませて置かねばならなかつたのである。どうしても離れることの出来ぬ繋りと、因縁とを、なぜはつきり告げて置かなかつたかと言ふ後悔が、此頃頻りに私の心を噛む。