木村 荘八
東京の風俗 序
「東京の風俗」といふ題名のもとに初めから一冊の本を書いたとすれば、又現在の本とは違つたものになつてゐたかと思はれますが、今全編の校正を終つて「東京の風俗」一本としてこの本を見ますと、題名に不釣合ひのものにはなつてゐなかつたことを感じます。
この本の中の特に「東京の風俗」と大見出しにした節から成る書きものは、元「東京遠近」と題して週刊ものにつづけた文章です。
東京遠近といふ言葉は生硬で意味の通りにくいことを恐れて、東京の風俗とし、それをそのままこの本全体の命題としました。
「東京遠近」とは、東京を広く一般にバーズ・アイ・ビューで見るとは反対に、狭からうとも竪になるべく深くパースペクティーヴに依つて見るといふ程の意味で、この生硬な題名は取りやめましたけれど、この一本を貫く――これが材料の「東京」に対する――著者の態度なり見方は、ひつきやう「東京遠近」式に変化ないでせう。