木村 荘八

浴衣小感

一

浴衣がけは便利だといふ、無論便利だ。久しく外国へ行つてゐると夏は故郷の浴衣がけが恋しくなつてかなはないといふが、さもあらうと思ふ。便利で涼しい点では外国のどの夏衣裳にも勝るものだらう。

然したゞ便利で涼しいが故に起つたものかと云ふと、それは一つにはさうに相違ない。夏不便で涼しくないものは行はれるわけがない。しかしより以上に、それが衣裳としての一つの風俗を保つて今に行はれるわけは、美しいがゆゑに、それで猶発達したものと思ふ

――一体この浴衣又は浴衣がけといふ字は、いつ頃使ひ始めたものだらうか。この特殊な夏衣裳の沿革を一通り調べて見たらかなり面白からうといつも思つてゐながら、つい取り果さないのは、怠慢ながら、どのみち文化文政の頃にその風情が江戸の町家の粋人――といふか、または特殊なる識者――彼等の味覚に依つて鑑賞され、そこで、一つの「ゆかたがけ」といふ美術的にいつて立派な、まあ他の字でいへばあだな、いきな、それ迄の日本にはそこ迄はまだ無かつた極く微妙な味はひの風俗が、世の中に生じたものと思ふ。

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