堀 辰雄
羽ばたき
※(ローマ数字1、1-13-21)
丘の上のU塔には、千羽の鳩が棲んでゐた。それらの鳩がいちどきに飛翔すると、空は眞暗になつた。そしてしばらくそれらの羽音がU塔を神々しく支配した。それらの羽ばたきは何となく天使の羽ばたきを思はせた。
傳説によると、U塔のある丘は昔の仕置場の跡ださうだ。そしてこの塔の中には囚人が幽閉されてゐたといふことである。だが今では誰も知らないのだ、そのためにこんな淋しい場所になつてゐるのか、それともこんなに淋しいのでそんな傳説が生れたかを。このU塔に近づくものといへば、さういふ鳩と遊びにくる子供たちだけだつた。そのほか、ときどき浮浪者がやつて來て、塔のまはりで眠るやうなことがあつた。すると眞夜なかに、異樣な羽ばたきが彼等の夢を打つた……
U塔のある丘つづきに、フエアリイ・ランドと呼ばれる丘があつた。