堀 辰雄
日付のない日記
今朝も七時ごろに目が覺める。
それから一時間ばかり、私は寢床の上で、新聞を讀みながら、日光浴をやる。この頃は、丁度おあつらへ向きに、その時分になるともう朝日が一ぱい寢床の上にあたりだす。
八時頃やつと起きる。自分でパンをあぶり、チイズを切り、紅茶をいれる。無精な私なのだが、これだけは自分でしないと氣にいらない。
郵便物がくる。その中に雜誌が二三册と、江川書房からの小包がひとつある。眞先きにその小包を開けて見ると、小林の今度譯した「テスト氏」。――何だか、かう、すらりと脊の高い人を見たやうな感じの、美しい小册子である。