ゲラン シャルル

ジャム、君の家は

「マルテの手記」の一節に、巴里の陋巷で苦惱に充ちた生活をしてゐる孤獨なマルテが、或日圖書館で讀んだ一人の田園詩人――山のなかの靜かな古い家で、花や小鳥や書物などを相手にして暮らしてゐられるその幸福な詩人のことをひそかに羨望するところがある。その一節は讀者に忘れがたい印象を殘すが、その田園詩人はフランシス・ジャムだと云ふことになつてゐる。

この頃ジャムの囘想記をひもといてゐたら、第三卷のはじめのところに、ピレネェ山中の、もうスペインとの國境にも近いオルテエズの村で、まだ若い詩人が母とただ二人きりで靜かに暮らすことになつた新居の模樣が愉しげに敍せられてある。處女詩集「曉のアンジェラスから夕のアンジェラスまで」をこれから世に問はうとしてゐた頃(一九九八年[#「一九九八年」はママ])のことで、その家への最初の客として、詩人シャルル・ゲランがはるばる訪ねて來る。そして一緒に棕櫚の日曜日を過ごす。そのをりシャルル・ゲランがジャムに與へた詩の斷片は、その隱棲をわれわれの目にも浮ぶやうに蘇らせてくれる……

おお、ジャム、君の家は君の顏にそつくりだね。

蔦の鬚がからんで、松の木がそれを覆うてゐる。

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