堀 辰雄

フローラとフォーナ

プルウストは花を描くことが好きらしい。

彼の小説の中心地であるとさへ言はれてゐるコンブレエといふ田舍などは、まるで花で埋まつてゐるやうに描かれてゐる。山査子だとか、リラだとか、睡蓮だとか……

第二部の「花さける少女の影に」になると、その表題からして作者の花好きらしいことが偲ばれる。ことに子供の時分に、一晩中、ランプの下で、林檎の一枝を手にしてその白い花を飽かず見つめてゐるうちに、だんだん夜が明けてきてその光線の具合でその白い花が薔薇色を帶びてくるところを書いた一節などは、なかなか印象が深い。

「ソドムとゴモル」の中には、一少女がジェラニウムのやうに笑ふところが描かれてゐる。

青空文庫の作品カード