堀 辰雄

「マルテの手記」

丁抹の若い貴族マルテ・ラウリッツ・ブリッゲがその敗殘の身をパリの一隅によせ、其處でうらぶれた人々にまじつて孤獨な生活をはじめる。

第一部の前半は、先づ、マルテをとりかこむパリの怖ろしい印象でうづまつてゐる。

ボオドレエル、死、憑かれた男、盲目の物賣り、古い家の癩病やみのやうな壁、それからマルテの病氣、いよいよつのる不安……

マルテはかかる不安を告白したのち、幼年時代の思ひ出を、彼の生の唯一の支へであるかのやうに喚びよせる。スカンヂナヴィアの物靜かな風物、古い館、夭折した少女インゲボルク、奇妙な二三の插話、母の死、謎のやうなアベロオネ……

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