岡本 綺堂

黄八丈の小袖

上

「あの、お菊。ちょいとここへ来ておくれ。」

今年十八で、眉の可愛い、眼の細い下女のお菊は、白子屋の奥へ呼ばれた。主人の庄三郎は不在で、そこには女房のお常と下女のお久とが坐っていた。お久はお菊よりも七歳の年上で、この店に十年も長年している小賢しげな女であった。

どんな相談をかけられたか知らないが、半※(「日+向」、第3水準1-85-25)ほどの後にここを出て来たお菊の顔色は水のようになっていた。お菊は武州越ヶ谷の在から去年の春ここへ奉公に来て、今年の二月の出代りにも長年して、女房のお常にも娘のお熊にも可愛がられていた。時々に芝居やお開帳のお供にも連れて行かれていた。

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