岡本 綺堂

小坂部姫

一

「物申う、案内申う。あるじの御坊おわすか。」

うす物の被衣の上に檜木笠を深くした上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)ふうの若い女が草ぶかい庵の前にたたずんで、低い優しい声で案内を求めた。南朝の暦応三年も秋ふけて、女の笠の褄をすべる夕日のうすい影が、かれの長い袂にまつわる芒の白い穂を冷たそうに照らしていた。

一度呼んでも、内では答えがなかった。二度、三度、かれは呼びつづけながら竹の戸をほとほとと軽く叩くと、やがて内では眠そうな声がきこえた。

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