林 不忘
釘抜藤吉捕物覚書
一
近江屋の隠居が自慢たらたらで腕を揮った腰の曲がった蝦の跳ねている海老床の障子に、春は四月の麗かな陽が旱魃つづきの塵埃を見せて、焙烙のように燃えさかっている午さがりのことだった。
八つを告げる回向院の鐘の音が、桜花を映して悩ましく霞んだ蒼穹へ吸われるように消えてしまうと、落着きのわるい床几のうえで釘抜藤吉は大っぴらに一つ欠伸を洩らした。
「おっとっとっと――。」
林 不忘
一
近江屋の隠居が自慢たらたらで腕を揮った腰の曲がった蝦の跳ねている海老床の障子に、春は四月の麗かな陽が旱魃つづきの塵埃を見せて、焙烙のように燃えさかっている午さがりのことだった。
八つを告げる回向院の鐘の音が、桜花を映して悩ましく霞んだ蒼穹へ吸われるように消えてしまうと、落着きのわるい床几のうえで釘抜藤吉は大っぴらに一つ欠伸を洩らした。
「おっとっとっと――。」