小酒井 不木

遺伝

「如何いう動機で私が刑法学者になったかと仰しゃるんですか」と、四十を越したばかりのK博士は言った。「そうですねえ、一口にいうと私のこの傷ですよ」

K博士は、頸部の正面左側にある二寸ばかりの瘢痕を指した。

「瘰癧でも手術なすった痕ですか」と私は何気なくたずねた。

「いいえ、御恥かしい話ですが……手っ取り早くいうならば、無理心中をしかけられた痕なんです」

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