平林 初之輔

二人の盲人

一

復興局の一技師の手が、大東京市の地図の上に、縦横に朱線をひいていく。個人の既得権も利害関係も、センチメンタルな詠嘆も、すべてを無視して、彼のペンは気まぐれに地図の上を、走っていく。

○○山の切り通しの上の、四十坪ばかりの土地を、天にも地にも、たった一つの財産として父祖幾代の昔から受けついできた、玄療院の屋敷も、無慈悲な都市計画の犠牲となって、市の中央へ通ずる放射線の道路新設のために、半ば以上切り取られることになった。

この都市計画案が発表されてから、玄石は急に憂鬱になった。子供の時に、盲目になった彼は、このささやかな父祖伝来の財産を、少年時代の思い出で、十重二十重に包んでいた。彼にとっては、それが全世界だった。狭い家の中の様子はもとより、庭内の一木一草に至るまで彼の死んだ網膜の底に、二十年前のままの新鮮さをもって、焼きつけられていたのだ。

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