宮沢 賢治
〔蒼冷と純黒〕
〔冒頭欠〕
たいエゴイストだ。たゞ神のみ名によるエゴイストだと、君はもう一遍、云って呉れ。さうでなくてさへ、俺の胸は裂けやうとする。
純黒 俺の胸も裂けやうとする。おゝ。町はづれのたそがれの家で、顔のまっ赤な女が、一人で、せわしく飯をかき込んだ。それから、水色の汽車の窓の所で、瘠せた旅人が、青白い苹果にパクと噛みついた。俺は一人になる。君は此処から行かないで呉れ。〔〕
蒼冷 ありがたう。判った。判ってゐるよ。けれども俺は快楽主義者だ。冷たい朝の空気製のビールを考へてゐる。枯草を詰めた木沓のダンスを懐かしく思ふのだ。〔〕