種田 山頭火

草と虫とそして

いつからともなく、どこからともなく、秋が来た。ことしは秋も早足で来たらしい。

昼はつくつくぼうし、夜はがちゃがちゃがうるさいほど鳴き立てていたが、それらもいつか遠ざかって、このごろはこおろぎの世界である。こおろぎの歌に松虫が調子をあわせる。百舌鳥の声、五位鷺の声、或る日は万歳万歳のさけびが聞える。夜になると、どこかのラジオがきれぎれに響く。

柿の葉が秋の葉らしく色づいて落ちる。実も落ちる。その音があたりのしずかさをさらにしずかにする。

蚊が、蠅がとても鋭くなった。声も立てないで触れるとすぐ螫す藪蚊、蠅は殆んどいないけれども、街へ出かけるときっと二三匹ついてくる。たまたま誰か来てくれると、意識しないお土産として連れてくる。彼等は蠅たたきを知っている。打とうとする手を感じていちはやく逃げる。いのち短かい虫、死を前にして一生懸命なのだ。無理もないと思う。

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