国枝 史郎
血煙天明陣
駕籠を襲う者
一
天明五年十一月、三日の夜の深更であった。宵の間にかくれた月の後、空には星ばかりが繁くまばたき、冬の寒さをいや増しに思わせ、遠くで吠え立てる家護りの犬の、声さえ顫えて聞こえなされた。
大江戸の町々は寝静まり、掛け行燈には火影さえなく、夜を警しめる番太郎の、拍子木の音ばかりが寂寥の度を、で、さらに加えていた。
国枝 史郎
駕籠を襲う者
一
天明五年十一月、三日の夜の深更であった。宵の間にかくれた月の後、空には星ばかりが繁くまばたき、冬の寒さをいや増しに思わせ、遠くで吠え立てる家護りの犬の、声さえ顫えて聞こえなされた。
大江戸の町々は寝静まり、掛け行燈には火影さえなく、夜を警しめる番太郎の、拍子木の音ばかりが寂寥の度を、で、さらに加えていた。