堀 辰雄

(芥川竜之介の書翰に就いて)

僕はこの頃、芥川龍之介書翰集(全集第七卷)を讀みかへした。そしてちよつと氣のついたことがあるから、それを喋舌つて見たい。

芥川さんは brilliant な座談家だつたさうである。さういふどこか才氣煥發といつたやうな風貌は大正七、八年頃の書翰の中にうかがはれないことはない。しかし、さういふ芥川さんは僕のすこしも知らない芥川さんだ。

又、芥川さんは風流人だつたさうである。なるほどひと頃の書翰を見ると、終日俳句に凝つたり、なんといふ雅號をつけようかと苦心したりしてゐる。さういふ「澄江堂主人」もまた僕はあまり知らないのである。

それでは、僕の知つてゐる芥川さんはどういふ人かといへば、そのやうな談論風發といつた人でもなければ、又、風流な澄江堂主人でもない。その頃からもう神經衰弱であつたせゐか、むしろ話の下手くそな、無風流な人であつた。しかし、さういふものを通じたおかげで、僕はかへつて芥川さんの本當の brilliance に接觸してゐたのである。

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