堀 辰雄
手紙
野田君
また惡いさうだね。だから言はないこつちやない。ぢつと寢てゐたまへ。病氣はこつちで辛抱強く馴らしてやるがいいんだ。一度馴れてしまつたら、こんなに可愛い奴はない。
池谷さんが死んだんでこれからお葬式に行くところだ。時間が半端なので、いまコロンバンで、珈琲をのみながら、この手紙を書いてゐるんだ。
前から君に「オフェリヤ遺文」のことを何か書けと言はれてゐるので、何か書かう書かうと思つてゐたが、この頃僕は非常に混亂した氣持でゐるんだ。それで、「オフェリヤ遺文」を書きながら小林が行つてゐたやうな、あんな遠いところまで、とても今の僕にはついて行けさうもない。