泉 鏡花

雨ばけ

あちこちに、然るべき門は見えるが、それも場末で、古土塀、やぶれ垣の、入曲つて長く続く屋敷町を、雨もよひの陰気な暮方、その県の令に事ふる相応の支那の官人が一人、従者を従へて通り懸つた。知音の法筵に列するためであつた。

……来かゝる途中に、大川が一筋流れる……其の下流のひよろ/\とした――馬輿のもう通じない――細橋を渡り果てる頃、暮六つの鐘がゴーンと鳴つた。遠山の形が夕靄とともに近づいて、麓の影に暗く住む伏家の数々、小商する店には、早や佗しい灯が点れたが、此の小路にかゝると、樹立に深く、壁に潜んで、一燈の影も漏れずに寂しい。

前途を朦朧として過るものが見える。青牛に乗つて行く。……

小形の牛だと言ふから、近頃青島から渡来して荷車を曳いて働くのを、山の手でよく見掛ける、あの若僧ぐらゐなのだと思へば可い。……荷鞍にどろんとした桶の、一抱ほどなのをつけて居る。……大な雨笠を、ずぼりとした合羽着た肩の、両方かくれるばかり深く被つて、後向きにしよんぼりと濡れたやうに目前を行く。……とき/″\、

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