岡本 綺堂

ゆず湯

一

本日ゆず湯というビラを見ながら、わたしは急に春に近づいたような気分になって、いつもの湯屋の格子をくぐると、出あいがしらに建具屋のおじいさんが濡れ手拭で額をふきながら出て来た。

「旦那、徳がとうとう死にましたよ。」

「徳さん……。左官屋の徳さんが。」

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