泉 鏡花

甲乙

一

先刻は、小さな女中の案内で、雨の晴間を宿の畑へ、家内と葱を抜きに行った。……料理番に頼んで、晩にはこれで味噌汁を拵えて貰うつもりである。生玉子を割って、且つは吸ものにし、且つはおじやと言う、上等のライスカレエを手鍋で拵える。……腹ぐあいの悪い時だし、秋雨もこう毎日降続いて、そぞろ寒い晩にはこれが何より甘味い。

畑の次手に、目の覚めるような真紅な蓼の花と、かやつり草と、豆粒ほどな青い桔梗とを摘んで帰って、硝子杯を借りて卓子台に活けた。

……いま、また女中が、表二階の演技場で、万歳がはじまるから、と云って誘いに来た。――毎日雨ばかり続くから、宿でも浴客、就中、逗留客にたいくつさせまい心づかいであろう。

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