泉 鏡花

紅玉

時―――現代、初冬。場所――府下郊外の原野。人物――画工。侍女(烏の仮装したる)。貴夫人。老紳士。少紳士。小児五人。――別に、三羽の烏(侍女と同じ扮装)。

小児一 やあ、停車場の方の、遠くの方から、あんなものが遣つて来たぜ。小児二 何だい/\。小児三 あゝ、大なものを背負つて、蹌踉々々来るねえ。小児四 影法師まで、ぶら/\して居るよ。小児五 重いんだらうか。小児一 何だ、引越かなあ。小児二 構ふもんか、何だつて。小児三 御覧よ、脊よりか高い、障子見たやうなものを背負つてるから、凧が歩行いて来るやうだ。小児四 糸をつけて揚げる真似エして遣らう。小児五 遣れ/\、おもしろい。

凧を持つたのは凧を上げ、独楽を持ちたるは独楽を廻す。手にものなき一人、一方に向ひ、凧の糸を手繰る真似して笑ふ。

画工 (枠張のまゝ、絹地の画を、やけに紐からげにして、薄汚れたる背広の背に負ひ、初冬、枯野の夕日影にて、あか/\と且つ寂しき顔。酔へる足どりにて登場)……落第々々、大落第。(ぶらつく体を杖に突掛くる状、疲切つたる樵夫の如し。しばらくして、叫ぶ)畜生、状を見やがれ。

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