泉 鏡花

光籃

田舎の娘であらう。縞柄も分らない筒袖の古浴衣に、煮染めたやうな手拭を頬被りして、水の中に立つたのは。……それを其のまゝに見えるけれど、如何に奇を好めばと云つても、女の形に案山子を拵へるものはない。

盂蘭盆すぎの良い月であつた。風はないが、白露の蘆に満ちたのが、穂に似て、細流に揺れて、雫が、青い葉、青い茎を伝つて、点滴ばかりである。

町を流るゝ大川の、下の小橋を、もつと此処は下流に成る。やがて潟へ落ちる川口で、此の田つゞきの小流との間には、一寸高く築いた塘堤があるが、初夜過ぎて町は遠し、村も静つた。場末の湿地で、藁屋の侘しい処だから、塘堤一杯の月影も、破窓をさす貧い台所の棚の明るい趣がある。

遠近の森に棲む、狐か狸か、と見るのが相応しいまで、ものさびて、のそ/\と歩行く犬さへ、梁を走る古鼠かと疑はるゝのに――

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