泉 鏡花

二世の契

一

真中に一棟、小さき屋根の、恰も朝凪の海に難破船の俤のやう、且つ破れ且つ傾いて見ゆるのは、此の広野を、久しい以前汽車が横切つた、其の時分の停車場の名残である。

路も纔に通ずるばかり、枯れても未だ葎の結ぼれた上へ、煙の如く降りかゝる小雨を透かして、遠く其の寂しい状を視めながら、

「もし、お媼さん、彼処までは何のくらゐあります。」

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