泉 鏡花
蠅を憎む記
上
いたづら為たるものは金坊である。初めは稗蒔の稗の、月代のやうに素直に細く伸びた葉尖を、フツ/\と吹いたり、※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)たけた顔を斜めにして、金魚鉢の金魚の目を、左から、又右の方から視めたり。
やがて出窓の管簾を半ば捲いた下で、腹ンばひに成つたが、午飯の済んだ後で眠気がさして、くるりと一ツ廻つて、姉の針箱の方を頭にすると、足を投げて仰向になつた。
目は、ぱつちりと※(「目+爭」、第3水準1-88-85)いて居ながら、敢て見るともなく針箱の中に可愛らしい悪戯な手を入れたが、何を捜すでもなく、指に当つたのは、ふつくりした糸巻であつた。