泉 鏡花
伯爵の釵
一
此のもの語の起つた土地は、清きと、美しきと、二筋の大川、市の両端を流れ、真中央に城の天守尚ほ高く聳え、森黒く、濠蒼く、国境の山岳は重畳として、湖を包み、海に沿ひ、橋と、坂と、辻の柳、甍の浪の町を抱いた、北陸の都である。
一年、激しい旱魃のあつた真夏の事。
……と言ふと忽ち、天に可恐しき入道雲湧き、地に水論の修羅の巷の流れたやうに聞えるけれど、決して、そんな、物騒な沙汰ではない。
泉 鏡花
一
此のもの語の起つた土地は、清きと、美しきと、二筋の大川、市の両端を流れ、真中央に城の天守尚ほ高く聳え、森黒く、濠蒼く、国境の山岳は重畳として、湖を包み、海に沿ひ、橋と、坂と、辻の柳、甍の浪の町を抱いた、北陸の都である。
一年、激しい旱魃のあつた真夏の事。
……と言ふと忽ち、天に可恐しき入道雲湧き、地に水論の修羅の巷の流れたやうに聞えるけれど、決して、そんな、物騒な沙汰ではない。