原 民喜
牛を調弄ふ男
その少女は馬鹿なのか善良なのか、とにかく調子はづれの女だった。それにその喫茶店の制度が、一々客のテーブルの側を巡回させて、「いらっしゃいませ、今日は誠に結構なお天気で御座います。」と御機嫌伺ひをやらせるのだから少し変ってゐた。誰だってこんな所へ本気で来る筈はないと安永は思った。その彼だっていい齢をして何が面白くてこんな場所に来るのか解らなかった。が、三日その少女を見ないと何だか物足らないし気になる程安永はよく其処へ行った。
その日、安永は月給を貰って吻とした軽い気持で其処のドアを押した。
「いらっしゃいませ、今日は誠に結構なお天気で御座います。」少女は紋切型をとり澄ました態度で無表情に述べた。
「エヘヘヘ」