原 民喜
馬頭観世音
東京から叔父が由三の家を訪ねて来たのは、今度叔父も愈々墓地を買ったのでそれの自慢のためだった。叔父は由三の灰白な貌と奇怪なアトリエを見較べながら、そこらに並んでゐるカンバスがすべてまっ白なのに驚いて、
「君は絵を描くと云ひながら、何も描ててはゐないぢゃないか、さう云ふ精神で出世が出来るか、それに君はこんな結構な静かな海辺に居りながら恐しく顔色がわるい、どうして毎日散歩して体のことを考へないのだ、その調子だと君は間もなく死ぬるぞ。」と叱りつけてをいてやがてニヤリと白い歯を見せながら、
「ところで今度俺は墓地を買ったよ、今日はまあその自慢に来たのだが一つ散歩がてら見に行かないか。」と、叔父は由三を促して、自動車を傭った。
二人はそこから一里ばかり離れた、海岸の丘の上にある寺に来た。叔父の買った墓地は、一番高いところに在って、太平洋を睥睨してゐる恐しく眺望のいい場所だった。椿の真紅な花が燃えてゐて、陽は初夏のやうに豊かに降り注ぎ、何の鳥だか、頻りに人を恍惚とさす囀りが、あたりの空気を顫はせてゐた。そして沖の方には今、汽船が一艘、煙を燻せてゐた。