原 民喜
比喩
机を前にして二人の少年は坐ってゐた。ガラス窓の外には寒さうな山があった。話は杜絶え勝ちだった。時間がここでは悠久に流れてゐた。
「君は馬鹿だよ、僕は君を軽蔑してゐるのだが、ただ便宜上交際ってるのだよ。」と一人は腹の底でさう囁いたが、口に出しては云はなかった。仮りにこんなことが平気で云へて、相手も平気で聞き流して呉れたら、さぞ面白いだらうに、と彼は腹の底で妄想した。相手の少年は鼻で深い呼吸をしながら、何か別のことを考へてゐるらしかった。
「僕は妙な気がするよ、かうして君と僕と此処に坐ってゐるのと、恰度同じやうなものが、何処かこの宇宙の裏側にもう一つあるのではないかと、何時もそんな気がするのだ。」
相手が変なことを云ひ出したので、彼の注意も改まった。