宮沢 賢治
龍と詩人
龍のチャーナタは洞のなかへさして來る上げ潮からからだをうねり出した。
洞の隙間から朝日がきらきら射して來て水底の岩の凹凸をはっきり陰影で浮き出させ、またその岩につくたくさんの赤や白の動物を寫し出した。
チャーナタはうっとりその青くすこし朧ろな水を見た。それから洞のすきまを通して火のやうにきらきら光る海の水を淺黄いろの天末にかかる火球日天子の座を見た。
(おれはその幾千由旬の海を自由に漕ぎ、その清いそらを絶え絶え息して黒雲を卷きながら翔けれるのだ。それだのにおれはここを出て行けない。この洞の外の海に通ずる隙間は辛くも外をのぞくことができるに過ぎぬ。)