中島 敦

夾竹桃の家の女

午後。風がすつかり呼吸を停めた。

薄く空一面を蔽うた雲の下で、空気は水分に飽和して重く淀んでゐる。暑い。全く、どう逃れようもなく暑い。

蒸風呂にはひり過ぎた様なけだるさに、一歩一歩重い足を引摺るやうにして、私は歩いて行く。足が重いのは、一週間ばかり寝付いたデング熱がまだ治り切らないせゐでもある。疲れる。呼吸が詰まるやうだ。

眩暈を感じて足をとゞめる。道傍のウカル樹の幹に手を突いて身体を支へ、目を閉ぢた。デングの四十度の熱に浮かされた時の・数日前の幻覚が、再び瞼の裏に現れさうな気がする。其の時と同じ様に、目を閉ぢた闇の中を眩い光を放つ灼熱の白金の渦巻がぐるぐると廻り出す。いけない! と思つて直ぐに目を開く。

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